介護業界に限らず、人材の流動化が進んでいます。そのため様々な育成方法が発案されました。今回は育成方法の中でも、介護の職場に合っており、よく実施されている「OJT」についてご紹介します。
1.OJTとは
「On-the-Job Training」略してOJTと呼ばれます。先輩職員の業務を見ながら、実践を通じて覚える手法です。取り入れている事業所は多いのではないでしょうか。
2.OJTのメリット・デメリット
【メリット】
・実践的に業務を学べる
・よいところ、直すべきところのフィードバックをその場で受けられる
口頭説明だけではわかりづらい介護技術について、実業務を見てすぐに実践できるため研修効果が高いと言えるでしょう。特に介護経験の無い新卒職員や外国人労働者は、イメージしづらいことが多いので、初めはゆっくり実業務を見せることが大切です。
・研修担当も成長できる
アウトプットをすることは、技術やスキルの定着に繋がります。また新入職員から質問されることで、実務の理由を改めて理解したり、自身も知らなかったことがあったことに気付かされます。
新入職員のためのOJTですが、研修担当は自身も成長するという意識を持ちながら研修を行うと、相乗効果を得られるでしょう。
【デメリット】
・伝えることを研修担当内で統一させるのが難しい
日々のシフト業務を研修する際、日によって研修担当が変わることがあると思います。その際に「研修担当によって言っていることが違う…どちらに従えばよいのでしょうか。」と相談を受けたことはありませんか?
実際に私が新入職員だったときに同じ経験をしました。しかし先輩たちを否定することになりそうで、なかなか言い出しづらかったことを覚えています。今となっては、人によってやり方が異なると理解できます。しかし新入職員時代はそこまで想像できませんでした。
そのためできる限り伝える内容を統一し、人によってやり方が異なる場合はそれを事前に新入職員に伝えましょう。新入職員を混乱させないことが大切です。
・研修計画に労力がかかる
研修計画には下記の流れで行うとよいでしょう。
① シフトごと(早番、遅番、日勤、夜勤など)の動きを書き出す
② やるべきこと(タスク)を細かく書き出す
③ タスクに伴う必要な介護技術を洗い出し、レベル別にまとめる
④ 優先度の高いシフト業務や、介護技術のレベルどの順番でレクチャーするかを決める
① ②の段階で、削減・短縮できるタスクがないかを考えると、業務改善もできます。また、事業所ごとに早めに覚えてほしい業務があると思います。もちろんそれを優先的にレクチャーして問題ありません。しかし特に新卒職員や外国人労働者には注意が必要です。体系的に順序立てて説明することは、その後の理解や視野の広がりに関係するので、バランスを見てレクチャー順序を検討するとよいでしょう。
3.OJTの効果を高める方法
ご説明した通り、OJTはメリットがあるものの、苦労する点があるのも事実です。OJTを成功させるには、何に気をつければよいのか。具体的にご紹介します。
・研修担当の認識をすり合わせる
労力のかかるOJT。研修担当の中には「ちょっと面倒だなぁ…」と感じる人がいるでしょう。研修担当の思いは新入職員に伝わり、お互いのモチベーションを下げることになります。そのため依頼する際に下記のようなことに注意するとよいでしょう。
① 新入職員を受け入れ、成長させるメリットを伝える
単なる人材補充だけでなく、新入職員のキャラクターや期待していることを伝えることが大切です。例えば「新入職員が成長したら、事業所運営の◯◯の部分を担ってもらい、△△な効果を期待している」というかんじ。また「新入職員は◯◯なタイプだろうから、研修担当さんと合うと思うよ」など、研修担当が一緒に業務にあたるイメージを持ってもらうのもよいでしょう。
② 研修担当に選出した理由、期待する役割を伝える
「研修担当さんの◯◯スキルを新入職員に伝えてほしい」と、その研修担当に期待することを具体的に示すことが必要です。研修担当は自身の役割を認識できれば、OJTにモチベーション高く参加することができます。
・新入職員への理解を深める
新入職員はどのような人なのか?を具体的にイメージすることで、研修計画を立てるのに役立てられます。外国人労働者のため日本語や文化の違いに配慮する、新卒職員には社会人マナーも一緒に学んでもらおうなどです。
その他研修を進める中で、新入職員の性格や傾向が少しずつわかってくるでしょう。できる限り研修担当内で共有し、どのように接すればよいのか考えましょう。当たり前ですが、人によって得意・不得意があるので、受け入れ、どのように研修を進めればよいのか考えましょう。
・広い視野で研修を行う
目先の業務を教えるだけでなく、体系的に伝えたり、その業務の理由を伝えることが大切です。また新入職員は、業務一つひとつの意味をよく考え、ひいてはもっとよい方法がないかまで考えられるとベストです。
この訓練は目先のことにとらわれて視野が狭くなってしまうことを防ぎます。そうすることで、この先、事業所運営を担うための力を養うことができます。
・研修担当、新入職員、それぞれと振り返りをする
それぞれと振り返りを実施しましょう。よりよい研修とするためには、どうすればよかったか?双方からざっくばらんに話を聞きます。新入職員との振り返りは実施しないケースが多いと思います。しかし新入職員から話を聞くと、研修側からは気付けなかったことを知ることができるでしょう。
しかし新入職員は言い出しづらいことがあるでしょうから、配慮が必要です。
4.新入職員の声
戸惑いの連続である新入職員の声を集めました。
「介護の仕事は初めてです。ご利用者の体に触れるので、どこから、どのように、触れればよいのか迷いました。ご利用者に失礼がないか、とても不安でした。先輩のやり方を見るうちに、どうすればよいのかがわかるようになり、今では自信を持って対応できています。」
「軽い気持ちで介護の仕事に転職しました。できるかなぁと思いつつ、初めは先輩が付きっきりで教えてくれ、その後は現場での実践を重ねました。初めの研修が終わったら『はい、終わり』というわけではなく、『質問があればいつでも声を掛けてね』と言ってもらえ、定期的に面談を実施してくれるので、状況を共有しています。不安なことなどをすぐ相談できる人間関係なので続けられていると感じます。」
「ご利用者と上手く話せず苦労しました。年が近い人と話すのとでは、テンポも内容も異なり、戸惑いの連続でした。先輩たちにご利用者一人ひとりの特性や好きなことを聞き、その話題を振るようになってから、楽しくおしゃべりできるようになりました。」
「介護技術はもちろんですが、認知症などの病気やその対応方法を学ぶ研修があったらいいなあと思います。」
「全国のグループ事業所の新入職員を集めて、交流会を兼ねた研修を実施してもらいました。事業所内では同じ年の人たちが少ないのですが、この研修会を通じて、横の繋がりができました。今では悩みがあると相談していて、同じようなことで悩んでいることに気付き、『自分だけじゃないんだ』とお互い励まし合い、仕事と向き合うことができています。」
5.まとめ
OJTはメリットがある反面、デメリットもあることがわかりました。研修担当や新入職員、共によくコミュニケーションを取り、よりよい研修にすることが大切です。またもし途中で問題が発生した場合も、当人たちだけでなく、事業所全体で問題を解決するよう働きかけることが、孤独にさせることなく進めることができるでしょう。
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