どうすれば長く働いてもらえるのか?
外国人、日本人を問わず課題となる離職。事業所を運営する皆さまや、リーダー陣の永遠のテーマであると思います。特に優秀な人には、事業所を発展させる役割を担ってほしい。そんな思いを込めて、一緒に働いているのではないでしょうか。
人が仕事を辞める事情は様々で「これをやれば絶対大丈夫!」という確実なものはありません。しかし離職を0にはできなくても、減らすことは可能です。
今回は“働く環境”についてご紹介したいと思います。仕事は生活の一部であるため、プライベートとのバランスを取ることが大切です。いくらやる気があっても、無理がたたっては仕事を続けることはできません。
無理のない働き方を実現させるため、様々な事業所が工夫していることを事例を交えながらご紹介します。
1.年間休日数
介護業界の年間休日は、100~109日が最も多く、平均は111.5日です。定めた休日をしっかり取れているかも重要となります。休むことは、職員の体調はもちろんのこと、プライベート確立にも関わり、その職場で仕事を続けられるかに大きく影響します。
さらに、どのタイミングで休みが取れるのかという点も大事なポイントです。例えば夜勤明けの翌日は必ず休める、夏季休暇は職員間で協力してまとまった休みを取れるように調整している事業所は、求職者へのアピールポイントになるでしょう。
2.有給休暇取得率
企業は有給休暇が10日以上付与された労働者に、年間5日の有給休暇を取得させる義務が課せられています。これは労働基準法によるもので、会社の規模を問わないため、中小企業であっても同じ条件となります。
有給休暇付与のタイミングは、労働基準法によって定められています。例えば、フルタイム労働者は、正社員、契約社員問わず、6ヶ月継続勤務すれば付与されます。
一方でパートタイム労働者は、所定労働日数によって付与日は異なります。所定労働日数が少ない程、長い期間継続して勤務しなければ有給は付与されません。しかし有給が10日付与されれば、義務化の対象となりますので注意が必要です。
この取得義務化には、頭を悩ませている事業所が多いのではないでしょうか。常に忙しい介護現場で働く職員は、有給休暇取得を後回しにしがちです。そのような職員を思いやり、適切な声掛けが必要となるでしょう。
理想を述べるのであるならば、義務化されている年5日を超えて有給を取得できていると、他事業所との大きな差別化となります。まずは年5日の有給取得を目指し、さらなる有給取得を目指すと働きやすい職場をアピールすることができます。
3.子育てや介護との両立
産前産後休業や育児休業、介護休業制度を整えている事業所は多いと思います。しかし積極的に制度が活用されている、制度利用者と一緒に働く職員の協力を得られている状態にするまでには長い道のりであるのではないでしょうか。
そこで子育てとの両立にスポットを当てて、幅広くまとめました。
・産休、育休制度
産前産後休業
出産予定日の6週前から、出産予定日の8週間まで取得できる制度で、労働基準法により定められています。雇用形態を問わず取得を許可する必要があります。
育児休業
子が1歳になるまで取得できる制度です。(保育園に入れないなどの事情があれば、2歳まで延長することが可能です)
もちろん男性も取得できます。
・妊娠した職員に配慮すべきこと
妊娠した職員が、妊娠中~産休・育休~復職までに、どのような体や心の変化があり、どのような配慮が必要であるかをまとめました。
妊娠中
つわりにより体調が不安定になりやすい時期であるため、シフトを配慮している事業所は多いのではないでしょうか。例えば夜勤シフトをなくし、日勤シフトのみに変更するなどです。
一方でやっかいであるのは、妊娠中の体調は人それぞれ異なるという点です。例えば朝は元気だけれど夕方になるとドッと疲れが出てしまう人、はたまた朝は体調が悪く起き上がれないけれど昼頃から元気に働ける人、そもそもつわりがない人など…そのため十分な配慮をするには、妊娠した職員にこまめにヒアリングし、フォロー内容を考える、状況に応じてフォロー内容を変更する必要があります。
さらに一緒に働く職員への配慮も重要です。妊娠が身近でない、または知識や経験があってもそれを中心に考えてしまうと、妊娠している職員を理解することはできません。事業所は、妊娠による体調の変化は人それぞれであることを共有することが先決です。協力体制ができると全員が安心して業務を行えるでしょう。周りの職員は一時的にでも業務負荷がかかることがありますので、もちろん新たな体制づくりも大切です。
妊娠中に働きづらいと感じてしまうと、復職に対する意欲は下がってしまいます。妊娠中に「ここまで考えてくれた」「みんながフォローしてくれた」と感じられれば、またここで働きたいという想いにつながるのではないでしょうか。
産休・育休中
産休、育休中の職員とは、定期的なコミュニケーションが大切です。かしこまった連絡でなくとも、事業所のイベントに子ども連れOKで誘ってみるのもいいですね。子どもが遊びに来ると喜んで下さるご利用者がは多いと思います。職場全体がウェルカムであると伝えると、休業中の職員は立ち寄りやすくなるでしょう。
その際に体調や子育ての状況、検討している復職時期などをヒアリングしておけば今後の見通しが立てられます。
復職
子どもの預け先が決まった段階で、復職する職員との話し合いの場を持ちましょう。ヒアリング内容は、時短勤務希望や職種転換希望の有無、働く時間帯の確認、祖父母等のサポートは得られるか、今後のキャリアプランなどです。事業所を複数運営する企業であれば、自宅から近い職場への異動希望が出るかもしれません。
家庭環境は様々で、それに伴う復職後の働き方への考え方は十人十色です。一定期間は仕事をセーブしたい、子育ては家族と協力するため妊娠前と同じようにバリバリ働きたいなど、職員の考えをヒアリングすることが大切です。
希望全てを聞くことは難しいと思いますが、話し合うことで、職員は納得して復職後の仕事をスタートすることができるでしょう。
・パパの育休取得
昨今では男性の育休取得に注目が集まり、「イクメン」という言葉が浸透しました。2022年には全ての企業が対象となる法が改正され、国も後押ししています。このように世間の変化から、育休を取得して子育てに時間をかけたいと考える男性が増えているのではないでしょうか。
法改正のポイント
① 制度について説明し、取得促進が義務化
配偶者が妊娠したと申し出があった時点で、新設される産後パパ育休に関する制度を含む育休制度について伝える義務があります。
② 「出生時育児休業(産後パパ育休)」の新設 ※2022年10月実施
子どもが生まれてから8週間以内に、4週間まで取得できる制度です。現行の育休とは別に取得できます。さらに8週間以内であれば2回に分割して取得できることもポイントです。初めに期間をまとめて申し出る必要がありますが、家庭の状況に合わせて取得できます。
③ 育休の分割取得が可能 ※2022年10月実施
育休を2回まで分割して取得することができます。
例えば生後1~3ヶ月頃、3時間おきにお世話が必要な時期に一度、奥さんが復職する際に2回目の育休を取得するなどができます。産後パパ育休も2回取得できるので、合計4回に分けて取得できるようになります。
④ 有期雇用者の取得が可能
正社員と同じように育休を取得できます。ただし子が1歳6ヶ月になるまでの間に契約満了が明らかでないことが条件となるため注意が必要です。
*詳しくはこちらをご覧ください。
厚生労働省 育児・介護休業法 改正ポイントのご案内https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000130583.html
パパもハッピーな育休を過ごせるように
育休を取得することで職場への負担を心配される方も多いでしょう。下記就業日等の上限を守れば、育休中に仕事を継続することができます。
– 休業期間中の所定労働日・所定労働時間の半分
– 休業開始・終了予定日を就業日とする場合は当該日の所定労働時間数未満
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男性育休促進のため、様々なことが整備され始めました。制度が整えば取得希望者も増えるでしょう。
今後予想できることは、男女共に仕事と子育ての両立が求められるということです。女性が仕事と子育てを両立させる時代は終わり、夫婦二人が協力し合うことが増えるのではないでしょうか。
職員から希望が出たときに焦らないよう、今から業務調整ができるような体制づくり、さらには職場の雰囲気づくりが大切になるでしょう。
・産休・育休経験者の声
実際に産休・育休を経験した介護職員のインタビューをまとめてみました。事業所や周りの職員が協力してくれたことを交えていますので、ご参考いただければと思います。
妊娠中
「妊娠中は体調が不安定で、早番、遅番、夜勤のシフトに入れなくなってしまいましたが、職員に調整してもらい、日中のみ働くシフトで勤務させてもらえました。体に負担のかかる入浴介助も外してもらえたことも助かりました。」
「移乗介助では同僚や先輩がフォローしてくれて、安心して仕事ができました。」
「妊娠後期には、お腹が大きく車の運転が難しいことから、送迎対応を免除してもらえました。体のことを考えてくれ、とてもありがたかったです。」
産休・育休中
「頻繁に上司と連絡を取り合っていました。今の職場の状況を聞くことができ、復職のタイミングを急かされることもなく安心できました。」
復職
「産休に入るまでは、入居されている方の介護業務を担当していましたが、復職後はデイサービスへの異動が決まっていました。仕事内容が変わることへの不安はありましたが、働き方に配慮してもらったこと、職場の人たちのフォローがあり安心できました。」
「復職直後の1ヶ月は、仕事を思い出しリズムを整える時間とさせてもらいました。この時間をつくってもらえたおかげで、無理なく自然に仕事と子育てを両立する生活にしていけたと思います。」
「子どもが2人います。1人目の復職後はフルタイムで働いていましたが、2人目のときは育児で手一杯だったので、会社に相談して時短勤務にしてもらいました。」
「保育園入園直後、慣れない環境であったせいか、夜泣きがひどくなりました。私も復職したばかりで、寝不足で仕事に影響させてはいけないと思い、緊張状態が続いていたので、そこが少し大変でした。」
「仕事に没頭していて就業時間が迫っていると、周りの職員の方々から『もう時間じゃない?大丈夫?』と声をかけてくれるほどなので、とても温かい職場だと感じます。」
「この職場は業務改善の意識が強く、残業はしない主義。みんなで協力して分担したり、常に業務の見直しをしています。子育て中の私含め、職員全員が定時で上がれるように調整しているので、気兼ねなく働くことができます。」
パパ
「自分より上席の男性社員が育休を取っていたので、抵抗はありませんでした。管理者を担っていたので休業中は2人の部下に業務を引き継ぎました。例えば新規のご利用者様のご家族との関わりなど、通常業務以上のことを経験してもらえたので、良い機会になったかなとプラスに考えられています。」
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皆さん、職員間で協力しながら仕事をしていますね。これは業界問わずですが「みんなが残業をしていないから気兼ねなく定時で帰れる」「自分の他にも妊娠中や子育て中、介護中の同僚がいるから、お互い様だと思える」など、”自分だけ”と思わせない環境が大切のようです。
一方で、まだまだ男性の育休取得者は少なく、女性に関しては「妊娠と同時に退職した」などのケースも散見されました。退職理由のほとんどが「子育てと両立して仕事続けている先輩が職場にいなかった」「妊娠前の仕事がハードで、妊娠中や復職した後に同じ業務量をこなせると思えなかった」というものでした。
4.まとめ
全ての項目において「効率的に働く」ことが大切であることがわかります。「妊娠している職員がいないから…」と後回しにせず、早めから業務改善・削減に取り組むべきでしょう。このような環境づくりをしていけば、妊娠など休みを取る事情のある従業員が発生しても「ここなら仕事を続けられる」と感じてもらえます。
様々なロールモデルができていけば、職員にも安心が広がるでしょう。これからは外国人含め多種多様な人材が増えます。様々な働き方ができる職場は、多くの人が働きたいと思うきっかけになるでしょう。
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